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電力会社の発電・電力小売り一体経営を放置したまま始めた電力自由化に現れ始めた弊害
自由化に反する東京電力の相場操縦、市場価格を5カ月間つり上げ
自由化に反する東京電力の相場操縦、市場価格を5カ月間つり上げ 


東京電力グループ小売事業を担う東京電力エナジーパートナーが、市場取引で相場操縦に該当する行為を5カ月間も繰り返していた。市場で売買する電力の売り入札価格を自社の小売原価と一致させる方法によって、価格を不当につり上げていたことが国の監視委員会の調査で明らかになった。
[石田雅也,スマートジャパン]



 電力・ガス取引監視等委員会が東京電力エナジーパートナー(東京電力EP)に対して小売電気事業者では初めての業務改善勧告を11月17日に発令した。6月にも送配電事業会社の東京電力パワーグリッドが電力使用量の通知遅延を理由に同委員会から業務改善勧告を受けているが、それと比べて東京電力EPの今回の該当行為は悪質だ。

 委員会が明らかにした内容によると、東京電力EPは日本卸電力取引所が運営する「1日前市場」において、売り入札価格を不当に高く設定して取引行為を実施していた。1日前市場は電力を供給する1日前の時点で取引を確定させる市場で、国内の電力取引の中心に位置づけられている(図1)。




この重要な市場で東京電力EPは2016年4月1日から8月31日まで5カ月間にわたって、「相場操縦」に該当する行為を繰り返していた。1日前市場では24時間の電力を30分単位の48コマの商品に分けて売買する(図2)。東京電力EPは取引量が多くなる平日の昼間の時間帯のコマを対象に、「閾値(しきいち)」と名づけた価格を売り入札の下限に設定していた。閾値よりも低い価格では入札を実行しないようにしていたわけだ。



 1日前市場では売り手買い手が入札価格と入札量をコマごとに出し合って取り引きする。1日分の入札が終了すると、価格と量が一致するところで約定価格と量を確定させる方式だ(図3)。入札価格ではなく一律の約定価格で売買する「シングルプライスオークション方式」を採用している。東京電力EPは自社の小売原価を閾値に設定して、それより安い価格で電力を調達できる場合でも、閾値まで引き上げて売り入札を実施した。




もし東京電力EPが閾値よりも安い実勢価格で売り入札を実施していれば、約定価格は下落していた。委員会の分析では、該当する5カ月間の平日昼間のコマのうち約6割で約定価格が下がっていたと推定している。その中には約定価格が約3割も低い水準になるコマもあった。相場操縦とみなされて当然の行為である。


相場操縦を認識しながら組織的に実行




 委員会が特に問題視している点は、東京電力EPが相場操縦の可能性を十分に認識していたにもかかわらず、長期間にわたって不当な行為を繰り返していたことだ。「格別な意図があった」と指摘している。これに対して東京電力EPは「相場操縦の意図は一切ありませんでした」と反論しながらも、閾値による売り入札を9月まで実施していたことを認めている。

 政府は電力の小売全面自由化を実施する直前の2016年3月7日に、発電・送配電・小売の全事業者を対象に取引を規定するガイドライン「適正な電力取引についての指針」の内容を改定している。小売全面自由化を機に多数の事業者が参入してくるため、公正競争促進するうえで「問題となる行為」を追加した。その中にインサイダー取引などと合わせて相場操縦が入っている(図4)。



ガイドラインでは相場操縦の対象として3種類の行為を挙げている(図5)。このうち東京電力EPの行為は第2項の「市場相場を変動させることを目的として市場相場に重大な影響をもたらす取引を実行すること」に該当すると委員会は判断した。



 具体的にはどのような行為が市場相場に重大な影響をもたらすのか。ガイドラインでは5つの例を挙げている(図6)。その最後の5番目の例として、「本来の需給関係では合理的に説明することができない水準の価格につり上げるため売惜しみをすること」と書いてある。




本来の需給関係という観点では、小売電気事業者は毎日の需給バランスを見ながら、不足分を市場で買い、余剰分を市場で売る。余剰分を売る場合には、発電事業者が電力を1kWh(キロワット時)追加するために必要なコスト(限界費用)に基づいて入札価格を決める方法が通常だ。ただし発電設備の限界費用は電源の種類によって違う。

 火力発電でも燃料費の安い石炭から燃料費の高い石油まで、限界費用は段階的に高くなっていく(図7)。このうち限界費用が最も安い発電設備の電力から順番に市場で売るものだが、それよりも高い閾値で東京電力EPは売り入札を実施していた。この方法を駆使して、市場で取り引きする電力の価格を自社の小売原価と同等の水準になるように「人為的に操作していた」と委員会はみなした。





 発電事業と小売事業の明確な分離が必要



 委員会は東京電力EPの相場操縦に関して、影響の大きさを次のように指摘している。「東京電力エナジーパートナーのように多くの電源を確保する事業者が、このような行為を行うことは、他の事業者がスポット市場から必要な供給力を適正な価格で調達し、小売市場に新規参入すること又は小売市場において事業を維持・拡大することを阻害するものであり、電気事業の健全な発達を害するものとも判断しました。」

 東京電力グループは電力業界で最大の事業規模を誇るリーディングカンパニーである。福島第一原子力発電所の事故を起こして現在は国の管理下にあるとはいえ、政府が進める電力システム改革を率先して実行する立場にある。その意気込みを示すため、2020年4月に実施する予定の「発送電分離」に先がけて、2016年4月から発電・送配電・小売の3事業会社に分割する新体制へ移行した(図8)。





 発送電分離は電力会社の送配電事業を発電・小売事業から分離することである。多数の事業者が送配電ネットワークを平等に利用しながら、発電・小売事業で健全な競争状態を維持できるようにすることが目的だ(図9)。電力会社は発送電分離後も発電・小売事業を一体に運営することが可能だが、東京電力は両者を分離して競争を加速させる方向に動き出していた。



それにもかかわらず、小売事業会社の東京電力EPがグループ内の強大な発電能力を背景に不当な相場操縦を実行していた。発電事業と小売事業の分離は形式だけで、現実には一体で事業を運営していたのと変わらない状況だ。

 政府発送電分離によって中立性を維持しようと考えている対象は、あくまでも送配電事業にかかわる業務だけである(図10)。電力会社の発電事業と小売事業を一体に運営することに関しては認める方向だ。





しかし東京電力EPの相場操縦のような問題が起こると、改めて発電事業と小売事業の明確な分離を検討する必要が出てくる。それほどに大きな課題を浮き彫りにした不適切な行為と言える。監督官庁経済産業省は今回の問題を機に、発送電分離の実施形態を早急に見直すべきである。



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NEWSソース  スマートジャパン
2016/11/21  より