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天皇陛下の生前退位巡る専門家6人の見解詳細

政府は14日、天皇陛下生前退位を巡る有識者会合(座長・今井敬経団連名誉会長)の第4回会合を開き、専門家への2回目の意見聴取を実施した。専門家6人の見解の詳細は下記の通り。

渡部昇一・上智大名誉教授



上智大の渡部昇一名誉教授(14日午後、首相官邸)


 天皇陛下が国民の前で働かれるのは非常にありがたい。しかし「そうなさる必要はありませんよ」と伝える人がいれば(よい)。皇室典範にあるように、退位ではなく「摂政」で対応すべきだ。昔と違って、皇位継承権のある人が摂政になる現行の制度は、伊藤博文が考え抜いたものだ。何の心配もなく、現行の皇室典範通りに、摂政を穏やかに置けばよい。臨時措置法のようなことは皇室にとってよくない。

 陛下が「摂政は好ましくない」と(の趣旨を)述べられたのは、恐らく最後まで国民の目に見えるところで象徴天皇として仕事をしたいという、ありがたい心だろう。だがそこまでしなくても、宮中で国と国民のために祈ってくだされば十分仕事をしたことになる。天皇の仕事は祈ることだ。

 明治天皇の歌にも「民のため心のやすむ時ぞなき身は九重の内にありても」とある。国民のために祈ることが皇室の一番大切なことだと説得すればいい。

 説得するのは安倍晋三首相がいい。首相の皇室に対する尊敬の念には一片の疑いもない。首相が陛下に「お休みください。元号も変わらないで、皇位継承権のある皇太子さまが摂政になれば何の心配もない」と話せばいい。

 現在の混乱の多い世界で、スムーズな皇位継承がなされれば、日本の国威の宣揚にもなる。〔共同〕

岩井克己



ジャーナリストの岩井克己氏

 昭和天皇崩御を取材し、終身在位は残酷な制度だと感じた。天皇陛下のお気持ちを拝読し、高齢による限界に直面した時は生前に譲位すべきだとの問題提起と受け止めた。科学者でもある人間天皇らしい理にかなった考えだ。国や国民、残される皇室の方への責任感と思いやり、高い倫理性がにじんでいた。

 譲位を容認する選択肢を設けるべきだ。上皇院政の弊害が生じるとか、恣意的、強制的な退位があり得るという心配は、象徴天皇制が定着した現代では考えにくい。

 摂政は不可。天皇の意思能力がほとんど失われた時に置かれるもので、機能を失った象徴と併存し、中途半端な立場になる。重患に陥った天皇の尊厳も傷つく。

 公務の削減は困難だ。「国事行為」は憲法で定められた儀礼的活動なので削減できない。「公的行為」は天皇の意思に基づき皇后とともに積み重ねる活動で、一律に削減するのは難しい。天皇と宮内庁が相談して決めていくべきだ。

 譲位を認める場合、特別法ではなく、皇室典範改正の「王道」を行くべきだ。特別法では典範の権威や規範性を損なう。高齢化に対応する譲位に論点を絞り、本人の意思や皇室会議での承認といった条件を付ければ、難事ではない。世論調査でも陛下の考えに多くの国民が共感している。〔共同〕


笠原英彦・慶応大教授(政治学)



慶応大の笠原英彦教授

 現行制度での対応をまず考えるべきだ。退位は認められず、皇室典範の改正や特別法、いずれの方法も採るべきではない。

 皇室典範は退位を想定しておらず、安易な退位の制度化は危険だ。天皇の地位の安定性を損なう恐れがある。前天皇と現天皇の共存は、天皇の統合力の低下を招き「国民統合の象徴」の形骸化につながる。

 公的行為は規定する法律がなく、天皇の裁量で行われる。各天皇が時代にふさわしいと考える行為を行うべきで、天皇の考えで新たに行うものと、なくなる行為があってしかるべきだ。

 天皇陛下の負担は多大だ。活動のない日も資料を閲覧している。生前退位ありきではなく、他の皇族で公務を分担するなど負担軽減策を考える余地があるのではないか。

 摂政設置要件の拡大解釈は一つの方策だ。(摂政長期化による二重権威の問題について)長期にわたる場合は方策を考えなければならない。

 公務負担軽減や摂政の設置など、高齢化を踏まえた議論の後、それでも代替わりした方がいいとして法的対応をするなら、かたくなに否定はしない。

 公務を分担するといっても、皇族が減っては分担のしようがない。この問題の結論が出たら、速やかに女性宮家なども含め議論してほしい。

桜井よしこ



ジャーナリストの桜井よしこ氏

 譲位については賛成致しかねる。(明治政府の)先人たちは、皇室と日本の将来のため、歴史上頻繁に行われてきた譲位の制度をやめた。皇室には、何よりも安定が必要だ。

 歴史を振り返れば、譲位はたびたび政治利用されてきた。現在の日本で考えられなくとも100年、200年後はどうだろうか。国の在り方は長い先までの安定を念頭に置き、万全を期すことが大事だ。

 陛下は、ご自身なりの象徴天皇の在り方を模索なさる中で「常に国民と共にありたい」と願われ、とりわけ遠隔の地や島々への旅を実践してこられた。こうした理想的な天皇としての在り方が高齢で難しくなり、譲位なさると仮定して、同様の天皇像を次の世代に期待することは果たして妥当だろうか。

 憲法に抵触しかねない陛下のお言葉の背景には、よほどの思いがあったのだろう。陛下のご希望をかなえて差し上げたいと切望するのは、両陛下の幸せを願う一国民としての純粋かつ素朴な感情だ。

 しかし、ここは慎重の上にも慎重でありたいと思う。全身全霊で祭祀(さいし)や公務に打ち込む、ご高齢の陛下への配慮は当然だが、国家の在り方の問題は別だと指摘したい。

 譲位ではなく摂政を置くべきだ。皇室典範に高齢を(要件として)加えれば可能だ。


石原信雄・元官房副長官



元内閣官房副長官の石原信雄氏


 天皇が高齢になった場合は退位を認めるべきだ。当面適用される、皇室典範の特別法による法整備が適当だ。

 将来、皇室典範を改正する際は「精神もしくは身体の重患または重大な事故」により、公務を行うことが困難になった場合も退位を認めることとする。

 高齢になった場合も含め、退位を認める要件については年齢、精神もしくは身体の重患、重大な事故の程度や内容を具体的に定めるべきだ。

 これらの要件に該当するか否かは、皇室典範の規定による皇室会議が医師や専門家の意見を聞いて認定する。退位の時期については、皇室会議が退位の要件を満たしていることと、天皇の退位の意思を確認し、内閣に通告する。通告を受けた内閣が、所要の措置を講じる。

 退位した天皇は、原則として国事行為や公的行為は行わない。天皇としての権威は、全て新天皇に譲ることをはっきりさせるべきだ。

 憲法における天皇の役割は、現行通りでよい。

 高齢になった天皇の負担を軽くする方法としては、短期では憲法4条2項に基づき国事行為を委任する。長期の場合は摂政を設置する。地震、台風、集中豪雨などの災害による被災地の見舞いや各種大会への出席など、公的行為の範囲を縮小することも考えられる。〔共同〕

今谷明・帝京大特任教授(日本中世史)



帝京大特任教授の今谷明氏

 陛下は退位をご希望と拝される。退位も一案だが、かなり困難ではないか。

 (退位を巡り)与野党の見解が分かれているのが現状だ。既に政治問題化している。与野党が一致するまで、法的な措置を見送るのが相当だと思われる。陛下の切望といえども政府が無条件で対応する必要はない。

 退位後は太上天皇(上皇)と称するのが慣例だが、問題は退位後の“前天皇”を国民がどう見るかだ。太上天皇の方が国民の注目が集まり、天皇より上皇のお言葉に国民が影響を受ける、天皇より上皇の方が権威を持つという事態(権威の分裂)があり得る。

 この点で日本は独特の伝統があり、「生前御退位」には、よほど慎重でなければならない。

 (天皇は)歴史的には早く統治を離れ、抽象的な支配者と考えられてきた。権力に正統性を付与する伝統的存在として永く執政家によって擁立され、維持されてきた歴史を持つ。

 天皇はその存在自体が重大・貴重なもので、国事行為・公的行為は必ずしもご自身でなさる必要はない。皇太子、皇太弟ら皇族に代行をお願いしても差し支えない。

 摂政の設置で多忙への対応は可能だが必ずしも必要ではない。高齢という現状には、憲法の国事行為の委任(臨時代行)こそ最も適した対応だ。〔共同〕
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記事ソース 日本経済新聞
2016/11/15 より

第4回 有識者会議 天皇陛下のご退位(ご譲位)を巡る、譲位を認めない終身在位の皇室典範擁護派や、皇室に不敬な
「生前論者」を入れた安部内閣肝いりの「専門家」6人の意見