「国家プロジェクトは革新的な事業基盤を提供するだけ」


藤田氏は、「国家プロジェクトは革新的な事業基盤を提供するだけ。これらの研究成果を活用して、新しいビジネスを生み出すのは企業の役割である」と述べ、講演を締めくくった。

 この他、招待講演として、富士通研究所の会長を務める富田達夫氏、インテル日本法人の副社長を務める阿部剛士氏、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の衛星システム開発統括付を務める山川史郎氏、豊田中央研究所の主席研究員を務める各務学氏らが、応用機器/システム分野の立場から、光エレクトロニクスへの期待などを述べた。

光電子集積技術の応用分野として、荒川氏はスーパーコンピュータの事例を挙げた。2030年には人間の脳の能力より100倍高速で、100倍俯瞰的に処理を行うことができる脳機能コンピュータ(超人的人工知能)を、野球ボールサイズで実現することができる見通しだ。光配線技術などを用いることで、10PFLOPSの演算性能を可能とする。「野球ボールサイズスパコンは新産業革命のけん引役を果たす」(荒川氏)との見方を示した。



新ビジネス創出は企業

 続いて、「国家プロジェクトにおける技術研究組合PETRAの挑戦」と題し、藤田氏が講演を行った。藤田氏は、米国や欧州を中心に国家プロジェクトとして各国/地域で取り組まれているシリコンフォトニクスを用いた光電子集積回路の研究について、その特長などを述べるとともに、日本における取組などを紹介した。

 藤田氏は、まず各国の国家プロジェクト投資額や全研究費に占める政府負担比率などに触れ、EUや米国では政府負担額や負担比率が高いことを具体的に示した。しかも、「世界のシリコンフォトニクス国家プロジェクトではEUと米国が世界をけん引している」と述べた。


野球ボールサイズのてまり型スパコンが2030年に登場するのか。電子回路LSIの限界を超えるための技術として、シリコンフォトニクス技術が注目されている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「光エレクトロニクスシンポジウム」で、その可能性の一端を紹介した。
[馬本隆綱EE Times Japan]



新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2015年6月16日、「光エレクトロニクスシンポジウム」を東京都内で開催した。シリコンフォトニクス技術を用いた基盤技術の確立を目指した開発プロジェクトの概要やその進捗状況、野球ボールサイズ(てまり型)スーパーコンピュータへの期待などについて紹介した。

 NEDOは、情報通信機器の省電力化と高速化を目的に、シリコンフォトニクス技術の確立に向けて、2013年度より「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」プロジェクトに取り組んでいる。今回のシンポジウムは、学術的な成果発表というよりも、シリコンフォトニクス技術が社会に及ぼすインパクトなど、光エレクトロニクス分野の可能性や有用性などを広く知ってもらうために開催した。

 本稿では、同プロジェクトのリーダーを務める東京大学教授の荒川泰彦氏と、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)の専務理事を務める藤田友之氏の講演を中心にその概要を紹介する。


 

日本におけるシリコンフォトニクス関連の国家プロジェクトとシリコンフォトニクス技術が支える新たな事業のイメージ (上下)) 出典:PETRA
各国の国家プロジェクト投資額の推移(上)と世界のシリコンフォトニクス関連の国家プロジェクト(下)の概要 出典:PETRA
デジタルコヒーレント技術開発と超小型光回路要素部品開発の概要 (上下) 出典:東京大学
シリコン光電子融合技術

荒川氏は「シリコン光電子融合技術の現状と展望」と題して、光I/Oコアの開発および革新デバイス技術の研究開発などを中心に、担当するプロジェクトの概要について講演した。さらに、将来展望として2030年に実現されるとみられる野球ボールサイズスーパーコンピュータのイメージとそれが社会に与えるインパクトなどに触れた。

 まず、超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発プロジェクトの目標について、「演算性能や消費電力の点で大きな課題を抱えている現行の電子回路LSIの限界を突破するオンチップサーバ機能の実現」と話す。この限界を乗り越えていくための技術として注目されているのが光配線技術である。同プロジェクトでは、ハードウェアに加えて、ソフトウェアやアーキテクチャを含めた開発を行うとともに、アプリケーションに展開する可能性なども視野に入れている。2021年度末には光電子集積サーバボードのデモ実証を目指している。



逐次、製品化

 荒川氏は、同プロジェクトで取り組んでいる研究開発の中で、「光I/Oコア」「革新デバイス技術」「デジタルコヒーレント技術開発」および「超小型光回路要素部品」などにおける成果の概要を紹介した。例えば光I/Oコアでは、消費電力5mW/Gbps、帯域容量がチャネル当たり25Gbpsの光トランシーバを5mm角のチップで実現し、動作実証に成功している。さらに、デジタルコヒーレントDSP-LSIや集積光デバイス、デジタルコヒーレントトランシーバなどについては、2015年1月より事業化するなど、R&Dにとどまらず開発成果は逐次、製品化に結び付けていることも強調した。



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先端技術:スパコン並みの脳機能コンピュータ、2030年に野球ボールサイズで実現へ
光電子集積サーバ

 さらに、IBMやIntel、HP、Ericssonが開発に取り組んでいる光電子集積サーバのアーキテクチャなどを紹介した。IBMの光集積化技術は、ロジック層、メモリ層およびフォトニクスのネットワーク層からなる3層構造のデバイスで、25Gbps×4chトランシーバ製品が2016年に製品化される予定だという。

 日本におけるシリコンフォトニクスへの取り組みについても触れた。関係者の基本姿勢として、半導体の限界を克服する技術であることを共有していること、システム側の要求をデバイス開発に反映していくこと、などを挙げた。さらに、プロジェクト終了を待たずに、タイムリーに事業化することで、産業界あるいは社会に貢献していく考えである。





光I/Oコア(上)と革新デバイス技術(下)の概要   出典:東京大学
記事ソース  EETimes Japan
2015/06/18